Case

事例紹介
株式会社松屋

「多くの知見を持ち導いてくれるプロがいるから、DXが円滑に進む」。銀座の老舗・松屋のデジタル化支援

我々の耳の痛いところを指摘していただきつつ、一緒にDXを進めていきたい
デジタル化推進部・担当部長
佐藤洋一
先入観を持たずに顧客のニーズを把握するように努めています
株式会社鶴 代表取締役
林部健二
1925年に銀座の地に開店して以来、その文化を支え続けてきた株式会社松屋。今回は、そんな松屋のデジタル化を進めるデジタル化推進部・担当部長の佐藤洋一(さとう・よういち)さんと、株式会社鶴のデジタル化支援について振り返る。2018年にプロジェクトを開始してから約3年。コロナ禍をはじめとする多くの困難を乗り越えて生まれた、松屋のデジタル化に向けてのビジョンとそれを支える仕組みとは何か。

DX化を阻む、システム部と営業部の考え方の違い

――まずは、松屋さんの事業について教えていただけますか?

佐藤 銀座や浅草の百貨店というイメージが強い松屋ですが、創業は1869年(明治2年)、横浜でした。2022年には、第154期目を迎えるに至りました。

――とても長い歴史があるのですね!松屋における佐藤さんの仕事内容についても伺えますでしょうか?

佐藤 30年以上前からシステム部門で働いています。昔は、システムと言えばメインフレームと呼ばれる汎用機(基幹業務システムなどに使われる大型コンピュータ)の開発や保守が主な仕事で、いかに堅牢性や信頼性を担保するかに力を注いでいましたね。

最近では、こういった業務とあわせて、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼ばれる、企業成長のためのデジタル化が非常に重要になっております。その流れを受けて、デジタル化推進部という新たな部門として独立し、松屋のDXを進めております。

――ありがとうございます。現在の松屋さんにおけるデジタル化の状況について教えていただけますか?

佐藤 DXには、3つの段階(※下記参照)があるのですが、まだ第二段階の「デジタライゼーション」、業務のデジタル化の途中にありますね。最終段階の「デジタルトランスフォーメーション」とは、業務を超えた変革を起こすことを意味するのですが、そこまでは至ってないのが現状です。

【DXの構造】
① デジタイゼーション
② デジタライゼーション
③ デジタルトランスフォーメーション

出典:経済産業省「DXレポート2 中間とりまとめ(概要)

2020年からのコロナ禍では、外出やインバウンドなど、百貨店に大きく関わる人の流れが途絶え、私たちも創業してからはじめての休業という自体にも直面しました。通販の需要が増えたこともあり、今後は更にデジタル化の重要性は増してくるものだと考えております。

――なるほど。デジタル化を進めるにあたっては、どのような壁があるのでしょうか?

佐藤 一番大きな問題は、システム部門と営業部の考え方にギャップがあり、両者が同じ方向を向いてプロジェクトを進めるのが難しい、ということだと思います。情報システム部などは先程言ったように、「いかに堅牢なシステムを作るか」に重きをおいているケースが多いんです。逆に営業部は、「どうすればシステムを使って売上をアップできるか」といった視点で考えており、なかなか噛み合うことがないんです。

――それは、確かに大変ですね。

佐藤 また、私たちにとってもDXはこれまでにやったことがない挑戦とも言えるので、何が正しいかの判断がしにくいといったところもありました。そこで、鶴さんにデジタル化支援をお願いすることになったんです。

多くの知見を持った鶴が間に入ることで、DXが円滑に

――なるほど!そこで鶴につながるのですね。松屋さんが、鶴と一緒にデジタル化のプロジェクトを始めたのは、2018年と伺いました。鶴の存在はその前からご存知だったのでしょうか?

佐藤 私の上司が、鶴さんの開催する経営企画向けのセミナーに参加したのがきっかけです。そこからいろいろな相談を経て、サポートをお願いするに至りました。

――ズバリ、依頼を決めたポイントは何だったのでしょうか?

佐藤 これは座談会ということで言っちゃいますが、鶴の代表の林部さんってすごく毒舌さんなんですよ。上司からも「毒舌だからね」と念を押されたくらいで…(笑)。でも、突いてくるポイントが、知見に裏打ちされて、的を射ているんですよ。百貨店の長所であり短所でもあるのは、はっきりとものを言う人があまりいないところ。そんな中で、林部さんの「こういう理由だから、こうあるべき」と言ってくださるところは本当に頼りになりました。

林部 そんなに毒舌ですか?(笑)

――「知見に裏打ちされている」と感じた点についても、詳しく教えていただけますか?

佐藤 林部さんの場合は、ご自身が技術者であり、経営者であり、マーケターでもあるので、フレームワークを使った机上の空論ではなく、その経験値を元にアドバイスをいただけていると感じました。また、デジタル化のプロジェクトを進めるにおいて、基幹システムからEC、WEBマーケティングなど幅広い知識を持っているところも安心できる要素でした。

今後は、いかにデジタルを経営に活かすかが、企業の存続に大きく関わってくると思いますが、先程もお話したとおり、システム部の人間と経営の人間はコミュニケーションが難しい部分も多く…。そんなときに、両者の間を取り持ち、最終的なゴールに向けて道筋を示してくれるところは、とても感謝しています。

林部 日本の大企業って、経営と情報システムが話をすることって久しくなかったんですよ。しかし近年、GAFAやDXという言葉が出てきて、経営陣がデジタルについて意識をし始めたんです。で、情報システム部に行って「経営のためのデジタル化」について話を聞こうとするのですが、これまで情報システム部がやってきたことって、会社のシステムを作ることだったりして、話が噛み合わないんですよ。それで、「一体何がた正しいんだ?」と分からなくなってしまう企業さんは多いんですよ。

鶴のメンバーは全員が、経営経験はもちろん、これまでの基幹系システムから、営業系のWEBやECの知識もあるので、我々が入ることで「これは正しいです」とか「他にこんな選択肢もあります」など、第三者的な視点でアドバイスができるので重宝していただけているのではないかと考えています。

――なるほど。ここからは、実際に松屋さんでどのような支援を行っているか教えていただけますか?

林部 まずは、一緒に今後のDX化の戦略立案を行い、優先順位を立ててやることを決めていきました。具体的な内容としては、まずはデジタルにおいて顧客との接点、企業の顔となるWEBサイトの強化を行い、次にECサイトの開設やマーケティングを進めることにしました。そのなかで「サービス」「コマース」「メディア」といった軸を切り、それぞれの施策を行っていきます。

佐藤 元々、WEBやECサイトはあったのですが、全社最適ではない、一部の部門が作ったものだったんです。そこは、お得意の毒舌でズバッと切っていただき、「あるべき姿」を決め、そこに向かってデザインや機能を重視しながら作り上げていった流れですね。

林部 松屋は東京にのみ店舗があるので、「銀座の老舗」というブランディングを強化しつつ、情報発信を行い、今後は関東以外の地域でも顧客との接点を増やしていけたらと考えています。

――プロジェクトが始まって、3年が経ちますがその中でどんな変化がありましたか?

佐藤 実際にWEBサイトやECサイトが立ち上がったのが、2020年の春、ちょうど緊急事態宣言下でした。現在では、そこからある一定の数字が見込めるようになってきたので、あのときやって良かったと感じています。

林部  WEBサイトやECサイトは作っておしまいではないので、それを支える組織づくりなども並行して行っています。

――鶴のコンサルティングにおいて、一番大切にしていることは何でしょうか?

林部 当たり前ではありますが、お客さんが求めていることをしっかり理解して、結果につなげることですね。売上アップやコストカットなど、変な先入観を持たずに顧客のニーズを把握するように努めています。

佐藤 鶴さんのいいところは、綺麗な絵を描きつつもそれで終わりではなく、「理想はこれだけど、今松屋さんにできることからやりましょう」といった風に、現実的な案にまで落とし込んでくれるところですね。あとは、他のコンサルみたくシステムを作るにしても、ベンダーを紹介して終わりではなく、「ここは内政化できるんじゃないか」とか、「もっとシンプルな形で何度もサイクルを回してやろう」など、スピーディーかつシンプルにプロジェクトを進めてくれるところも大変助かっています。

デジタルでいかに多くの顧客の体験を作っていくか

――現在は、どんなことをされているのでしょうか?

佐藤 デジタル広告を作っています。システムに蓄積したデータなど、デジタル的な観点を活かして、松屋の広告のスタンダードが作れたらと考えています。

――今後の、松屋さんのビジョンについて教えてください。

佐藤 松屋の事業の軸は、昔と変わらず、お客様第一のサービスです。店舗での接客や体験、おもてなしを大切にしながらも、ショッピングはお店とオンライン、両方でできるようにし、お客様の選べる選択肢を増やしていけたらと考えています。また、関東圏以外のお客様にも松屋のサービスを体験できるような、デジタルを使ったおもてなしなどを企画しています。鶴さんには、今後も我々の耳の痛いところを指摘していただきつつ、一緒にDXを進めていきたいです。

――佐藤さん、ありがとうございます。最後に、林部代表に今後の目標について伺いたいです。

林部 どの業界も同じかもしれませんが、インバウンドや来店者の減少で、松屋さんの事業損失はいまだ大きなものかと思います。それを今後、どう回復させ、できればコロナ以前よりも良い状態になるように一緒にプロジェクトを進めていけたらと考えています。デジタル化によって、明治から続いてきた松屋さんの企業としての価値をさらに高めていきたいです。